イチロー氏が、米野球殿堂入りの表彰式で披露した英語スピーチが、我が国で絶賛されているが、米国人にとって果たして「流暢」な英語だったのだろうか。英語スクール経営の専門家「トライズ」代表の三木雄信氏が解説した。「イチロー氏のスピーチは決して難しい単語や文法を多用したものではありませんでした。いわゆる中学英語にプラスアルファした程度のレベルです。スピーチに出てくる全825ワードは、『オックスフォード英語辞典』の基本単語3000語で、実に92%をカバーしていました。この3000語というのが、日本の中学校で学ぶ英単語プラスアルファのレベルです。また、残りの8%のほとんどが地名や野球選手の名前、rookie(新人)などの野球用語でした。ある程度、野球を知っていれば子どもでも分かる英単語ばかりです。それでも、イチロー氏のスピーチがアメリカの聴衆の心を大きく揺さぶったのは事実です。その理由は、何より野球ファンとのコミュニケーションを意識した台本によって書かれていて、イチロー氏もそれを元にスピーチしたからです。このスピーチを聞いて、イチロー氏に「冷めたい人」といった印象を持っていたMLBファンが、「he came across warm and likable」(彼は温かくて人当たりがいい)とコメントするなど態度を変えた点は、殿堂入りスピーチでイチロー氏が、イメージを良くしたことを物語っています。メジャーリーグで日本人が殿堂入りしたことは、画期的な出来事でした。さらに母語ではない英語で、冗談も交えながら19分間のスピーチをやり遂げたことは、米国の移民文化や多様性を表す姿勢として高く評価されたのだと思います」。