田中角栄首相失脚の引き金を引いた「田中角栄研究~その金脈と人脈」を始め医療、宇宙、政治、経済、生命、哲学、臨死体験など多岐にわたる社会的なテーマと取り組みその飽くなき知的欲求を幅広い分野に及ばせていたことから「知の巨人」と呼ばれたジャーナリスト立花隆さんが80歳で亡くなった。その彼が5年前、「死はこわくない」という著書を発行した際に語った言葉が思い出される。「今回の本『 死はこわくない 』を書き終えたときですね。気持的に、自然に死が怖くなくなったんです。だから、自分でいろいろ取材して調べた結果、ロジカルな結論としてそのような考えに至ったということではなくて、自然な気持の流れとして自然にそうなっていたということです。ぼくは今年75歳で後期高齢者になったんですが、その要素というのがいちばん大きい背景だと思います。死が怖い、怖くないという話で言えば、もっぱら若いときは「死」が怖くて当然なんです。若さにとって死はアンチテーゼ(反対理論)そのものですから。ぼくにも事実、死というのを簡単には考えられないという時代がありました。しかし、いまは慣れ親しんでいるという感じですね。ある程度の年齢に達した人がどんどん死んでいくという、そういう年齢に入るわけですから、自然と「死」というものが慣れ親しんだものになってくるんです。だから、自然と怖くなくなりました。自分の人生全体を過去のものとして振り返る。いろんなことがあったにしても、気持として全体を見渡せる心境になったときというのはね、個人差があるにせよ、大半のひとはすごく安定した気持で振り返ることができるんではないでしょうか」。62歳以降、癌と闘いながらも、この達観した死生観、心からのご冥福をお祈りしたい。