憲法改正論議が繰り返しされる中で必ず出てくるのはアメリカの押し付け憲法という論と国民投票の形で国民の信を問わずに施行されたからという論だ。実際には日本人が考えた基本草稿にGHQ(アメリカ軍)が若干の手を加えただけというのが本当の所で全てをアメリカが押し付けてきた憲法では無いのは周知の事実である。では、なぜ制定された新憲法を国民投票によって国民の信を問わなかったのか?これは当時の首相であった吉田茂の頭のイイ考えがあったからだ。新憲法が施行された年の正月にGHQの代表であるダグラス・マッカーサーは吉田首相あてに書簡を送り、その中で「新憲法は施行後2年の間に日本人民が審査し必要であれば改正を行い、場合によっては国民投票が必要である。連合国(アメリカ)は(戦争放棄を謳った)新憲法が日本人民の自由にして熟慮された意志の表明である事に将来(日本国民から)疑念を持たれてはならない、と考えている」これに対して吉田茂は「書簡の内容を心に留めました」と返答しただけだった。吉田茂はこの2年以内の憲法改正論議の中でアメリカからの再軍備要請が必ず出てくることを察知したためだった。(実際にその後アメリカから再軍備要求はあった)吉田の心の中には「戦争放棄を謳った憲法の元でアメリカを日本が他国から責められない番犬として常駐させ、その間に経済復興に資金をつぎ込み国を再生させたい」という密かな目論みがあったからだ。この吉田茂のアメリカを日本の番犬にする発想を聞かされて当時の首相秘書官だった松野頼三が「あっけにとられた」という証言がある。この吉田茂の「アメリカ番犬政策」は70年以上経った今日に至るまで引き継がれ、中国やロシアの覇権主義から「アメリカの番犬」が日本を守ってくれているではないか。奇跡的な復興を成し遂げた戦後日本の再スタートを舵取りした吉田茂は、まさに不世出の宰相であったのだ。