2018年10月5日、英国ロンドンで開催された美術品オークションで、美術界の異端児として知られるバンクシーの版画「ガール・ウィズ・バルーン」(風船と少女)が出品され、104万2000ポンド(約1億5000万円)で落札された。ところが、落札が決まった瞬間、額縁にあらかじめ仕掛けられていたシュレッダーが作動し作品を半分程度断裁してしまった⬆。この作品を落札した女性は、当然キャンセルするかと思われたが「美術史に残る作品を所有することになる、ということに気づいた」と1億5000万円を支払いこの作品を購入した。それから3年後の2021年10月14日、同じオークション会場でこの半分裁断された版画がそのままの形で出品され、入札開始からたった1分程度で世界中からの入札が殺到し予想落札額を軽く越え、最終的に1858万2000ポンド、日本円にすると約29億円の史上最高額で落札されたのだ。シュレッダー事件が起きた際にバンクシーは、「破壊の衝動は創造の衝動でもある」というピカソの名言を引用して犯行声明を出した。投機ゲームとして金が積まれていく絵画オークション・ビジネスへの批判が犯行の動機だった。しかし、3年後の同じオークション会場でバンクシーが裁断したこの作品が何と29億円で落札された。裁断された作品を最初に1億円で購入した女性が「美術史に残る作品を手に入れた」と言ったのは、この世界中が注目する裁断されたままのアート作品はさらに高値で売れるだろうと投機ゲームにうってつけの作品と予想したからだ。バンクシーの美術作品の投機ゲームへの批判から生まれたシュレッダー事件。しかし、結果的にこのゲームは「バンクシーの負け」のように思われる(笑)