日本書紀 二十二巻の推古二十八年(620年)には、日本最古とされる天文記録が記されている。「十二月の庚寅の朔に、天に赤気有り。長さ一丈余なり。形雉尾に似れり」(十二月の庚寅、天に赤いしるしが現れた。それはキジの尾のようだった)⬆(上写真左)。これがオーロラのことについての記述なのか、これまで永遠の謎のままだった。オーロラは、一般的に緑色に光り、空にかかったカーテンのように見えると思われてきた。ところが、日本書紀の記述では、赤く光り、その形はキジの尾羽根のような形をしていると記述されている。日本書紀から1150年後の江戸時代の天文記録「星解」に1770年に現れたオーロラが描かれているが、このオーロラも日本書紀の記述と似た赤い光でキジが尾を広げた時の形で描かれている(⬆上写真右)。そして、日本書紀の記述から1400年後の2020年、永遠のナゾだった「赤いオーロラ」について、国立極地研究所、国文学研究資料館、総合研究大学院大学による共同研究プロジェクトが、「赤気」とは「扇形オーロラ」と整合すると明らかにした。研究によると日本書紀が書かれた620年当時の日本の磁気緯度は現在よりも10度ほど高く、大規模な磁気嵐が起これば、日本でオーロラが見えても不思議はなかったとし、「赤気」というオーロラの色味に関しては、過去の研究を総合し日本のような中緯度で見られるオーロラの光は赤く見え、キジの尾羽根のような扇形の構造であることも明らかにした。日本書紀の記述内容の信憑性については様々な学説があるが、「赤いオーロラを見た」の記述は正確だった。