ノーベル化学賞がリチウムイオン電池を開発した吉野彰氏(71)と米国の研究者2人に贈られ、日本の科学技術が国際的に高い評価を受けた2019年。その一方で、リチウムイオン電池の商業化に吉野彰氏より先に成功していながらノーベル賞受賞に至らなかった日本の技術者がいる。元ソニー上席常務の西美緒(よしお)さん(78)がその人だ。「(ノーベル賞選考委員会に)もう少しきちんと詳しく(電池開発の)歴史的な部分を調べてもらえたら、もっとよかった。同じようなことをやっていて、吉野氏のグループが一番乗りという認識がどこからきたのか、というのが(私には)ピンとこない」「今回のノーベル賞からは、私が開発に関わったソニーの開発チームが一番乗りではない、というような印象を持たれたと思う」と悔しさを露わにした。西氏のソニー開発チームは1991年、炭素素材であるコークスを負極として世界で初めてリチウムイオン電池を市場へ送り出した。ノーベル賞受賞の吉野さんの旭化成開発チームが同じ製品の生産を始めたのは、西氏のソニーチームの開発より2年後の93年のことだ。こうした経緯があるため、日本の科学専門記者の間では、リチウムイオン電池の開発が化学賞の受賞対象となった場合、西さんが受賞者の一人に選ばれる可能性があると以前からみられていたのに、吉野氏が受賞してしまった。ノーベル賞選考委員会が犯した重大なミス、西氏は、不満を言うだけでなく、ノーベル賞選考委員会に対して堂々と抗議すべきでは無いだろうか。