ソウルの女王アレサ・フランクリンが引退を発表した。2年前2015年の年末に開催されたケネディセンターで行われたコンサートで73歳のアレサは珍しく自らのピアノの弾き語りでA Natural Woman(ありのままの私)を切々と歌った。魂をゆさぶるようなソウルフルなその歌声の響きにに臨席していたオバマ大統領がおもわず涙を流して聞き入っていたことは今でも語り草になっている(YouTube参照)。2009年のオバマ大統領の就任式の式典でも歌を披露したアレサ・フランクリン。どんな歌でもアレサが唄うとヒューマン(人間愛)にあふれた歌に聞こえてしまう、という評価はまさにソウルの女王にふさわしい褒め言葉に違いない。我が国でアレサ・フランクリンを有名にしたのはサイモンとガーファンクルのカバー曲「明日に架ける橋」をゴスペル風に歌った1曲だろう。この曲が70年代アパルトヘイト(人種差別)に苦しんでいた南アフリカの黒人たちの間で大ヒットし黒人教会の讃美歌にまでなったというエピソードがある。グラミー賞を20回も受賞した彼女も70歳を超え、健康上の理由から先日行われたデトロイトのテレビインタビューの場で「今年が最後の年になります」と引退の意向を表明したのだ。人々の魂にまで染み渡る彼女の歌声が聞けなくなるのは寂しいが、1961年のデビュー以来56年という半世紀以上に渡るアレサ・フランクリンの歌手生活が、彼女と因縁の深かったオバマ大統領の引退と同時期に終焉を迎えたことに心からの喝采を贈ってあげたい。