医者の不養生(ふようじょう)ということわざがある。人に養生を勧める医者が、自分は健康に注意しないことを言い、正しいとわかっていながら自分では実行しないことの例えとしてよく使われる。ところが、東大医学部名誉教授の養老孟司先生86歳⬆は、例え話ではなく実際に「医者の不養生」を実践しているのだから恐れ入る。母校である東大病院に2年前に心筋梗塞で緊急入院した際に、精密検査で大腸ポリープも見つかった。そして昨年の診察で「大腸ポリープを取るか取らないかについて尋ねられました。2年前に「取らない」と言っていたのに、また尋ねるんです。大腸ポリープを放置していると、がん化するから取るべきだと言っているのですが、もちろん取る気はありません。そもそも大腸ポリープなんて、内視鏡で調べなければ存在しません。調べた人が取ると言っているだけだから、僕はそんなの知りませんよと答えるだけです。胃にも胃がんのリスクを高めるピロリ菌というやつがいて、除菌治療を勧められましたが、これも「除菌しない」と言っています。大腸がんにしろ、胃がんにしろ、年寄りががんの予防をする意味がわかりません。がんは年をとるほど増えるので、僕くらいの年齢ならがんが2つや3つあっても不思議ではありません。いったい、がんで死ななかったら、僕は何で死んだらいいのでしょう。死ぬ病気といったら、がんか肺炎くらいなのに、これでは簡単に死ねないですね」。がんの予防治療は意味が無いことを身をもって示している養老先生、「不養生」と言っては失礼にあたるのかも知れない。