ジャズ・クラシック界を代表する世界的なピアニスト、キース・ジャレット氏(75)⬆が21日、2度の脳卒中により体の一部がまひし、公演活動に復帰できる可能性は低いと自ら明かし、音楽界に衝撃が広がっている。39年前の1981年東京の日本武道館、大阪のフェスティバルホールをたった1人のソロ・ピアノ演奏で満員にしたキース・ジャレットの魅力とは一体何なのか。彼の演奏の最大の魅力は「完全即興」であり、コンサートごとに「どんな演奏が繰り広げられるかわからない」という点だろう。モダンジャズは、スウィング・ジャズ以降、ビバップ(ダンス 音楽 のジャズからアドリブ主体の演奏)へと発展したが、そのビバップですら、テーマ(主題)やコードが決まったうえでアドリブが行われていた。それに対して、キース・ジャレットが行ったライヴ・パフォーマンスは、テーマやコードすらなく、まさに完全な即興演奏なのだ。彼の手による即興演奏は、世に衝撃を与え、その深い表現力と構造は、ジャズ・ピアノの可能性を大きく広げたとされている。キース・ジャレットのライヴ演奏は、観客の声出しや拍手・スマホの着信音など、とにかくキースにとって「雑音」となるものは厳禁という厳密なルールがあり、過去には観客の咳や指笛などを理由に、演奏を中止、そのままコンサートを強制終了してしまったというケースがしばしば起きた。「たかが咳ぐらいで演奏をやめるなんて傲慢では?」と思われがちだが、キース・ジャレットの「何もない静寂の中から音をつむぎ出して即興演奏をする」という現象を見届けるためには、どれだけ演奏に感銘を受けようと、「拍手をしてはいけない」、「声援を送ってはいけない」という暗黙のルールがファンの側に存在しているのだ。モダン・ジャズ界の鬼才キース・ジャレットのピアノがもう聞けない、ファンにとっては断腸の思いだろう。