世界の喜劇王として知られたチャールズ・チャップリンは、1977年12月25日のクリスマスの早朝、スイスの自宅で睡眠中に脳卒中を起こし88歳で亡くなった。その2日後にアングリカン・チャーチ教会で、チャップリンの生前の希望による内輪だけの質素な葬儀が行われ、棺はコルシエ=シュル=ヴヴェイの墓地に埋葬された。ところが、2ヶ月後の1978年3月1日に彼の棺は何者かによって掘り起こされ、墓地から消えてしまったのだ。その後、チャップリンの妻のウーナ宛に棺を盗んだ犯人から60万スイス・フランの身代金を要求する手紙が届き、チャップリンの遺体が誘拐されたことが判明する。スイスの警察によって大掛かりな捜索が行われ、移民の失業者であるポーランド人のロマン・ヴォルダスとブルガリア人のガンチョ・ガネフの2人が逮捕される。2人は、自動車修理工場の開業資金を手に入れるためにチャップリンの遺体を盗み出し、身代金を要求したのだった。。チャップリンの棺は、墓地に近いノヴィーユ村の麦畑に埋められている状態で発見され、再発防止のため鉄筋コンクリートで周りを固めて同じ墓地に再び、埋め戻された。死んだ人間を誘拐し身代金を要求するという前代未聞のこの事件は、2014年のフランスで伝記コメディとして映画化されている。そのタイトルは「チャップリンからの贈り物」。確かに、死んでなお世間に話題を振り撒いた喜劇王チャップリンからの「贈り物」と言える事件だった。