「温泉なっとう」を初めに営業したある大手スーパーで面会したバイヤーとこんなやりとりがあったことを思い出した。そのバイヤーはまず「試食させてください」と言って目の前でパッケージを開き一口食べて見る。そのあとに、「これ普通の納豆ですよね」私は「いや温泉なっとう」です。バイヤー「いや普通の納豆の味しかしませんよ」私「いや温泉成分が含まれていて体に良いのです」バイヤー「データで商品は売れませんよ、ウチでは扱いません」にべもない答えだったが、このやりとりが心の片隅に何故か引っかかっていた。ローカルスーパーでの売り上げも商品が珍しいうちはまずまずだったが次第に売り上げ数量が落ち始め、スーパー側の判断で取り扱いを次々と中止するようになっていった。温泉水を使うという製造工程上、小売価格は普通の納豆の1.5倍の設定のため、スーパー向きの商品としては難しかったのかもしれない。それと同時に「普通の納豆」と同じ味では勝てるわけがない、あのバイヤーの不吉な予言は見事に的中したのである。その後の「温泉なっとう」の運命はお土産用として細々と生き残るだけとなったのだが、それでも年金にプラスできるだけの商標ロイヤリティー収入は毎月確保できていた。それが、今年になって、ある日突然に想いも寄らない出来事によって「温泉なっとう」は製造中止に追い込まれたのである。