日本人が大好きな歴史上の偉人、坂本龍馬(1836~67)が、歴史の教科書から消えるかも知れない。高校や大学の先生でつくる「高大連携歴史教育研究会」が、「歴史上の役割や意味が大きくない」として、坂本龍馬を教科書から削減する人物候補に挙げたからだ。現在の教科書では、坂本龍馬は 徳川幕府が政権を返上した「大政奉還」を推し進めた人物とされ、龍馬が提唱したとされる船中八策(平和的に日本を改革するための八つの策)が大政奉還でも活かされたと記述されているが、この船中八策は、現在の日本史研究では後世の創作だという説が有力だ。また、徳川幕府打倒の目的で薩摩藩と長州藩が手を結んだ薩長同盟で、龍馬が薩摩藩と長州藩の間を仲介した立役者だとされてきたが、龍馬はそこまで深くは介入していなかったことが判明、「日本の夜明け」を先導したとされる坂本龍馬による出来事は、今ではほとんど史実ではないと考えられているのだ。こうした史実と異なる龍馬像が広がったのは、司馬遼太郎の歴史小説『竜馬がゆく』やそれを元にした最高視聴率22.9%のNHK大河ドラマ「竜馬がゆく」の影響が大きいと言える。司馬は、「日本の夜明け」を先導した人物として史実と異なるヒーローとしての竜馬像を創り上げた、読者が坂本龍馬の実像と勘違いしないよう、龍馬をわざわざ竜馬に変えたフィクションなのだが、それでもなお多くの人々が坂本龍馬の実像だとカン違いしてしまっていた、というわけだ。