一度みたら忘れられなくなる針金のように細い彫像(⬆上写真右)で知られるシュルレアリズムの彫刻家アルベルト・ジャコメッテイ(⬆上写真左端)。1955年、実存主義哲学の日本人研究者矢内原伊作(⬆上左写真の右端)とパリで出会い、その顔に興味を持ったジャコメッテイは、矢内原に「君の顔を描かせて欲しい」と頼み、矢内原はモデルを引き受けた。しかし、ジャコメッティは矢内原の顔を「描きたいけど描けない。だから描きたい。なぜ描けないのかを知りたいから描きたい」と言い、仕方なく矢内原はモデルを務めるため毎年パリのアトリエに通いつめ、肖像画が完成するまでに3年もの歳月を要したのだ。しかし、絵がようやく完成した1958年に矢内原はジャコメッテイのアトリエに行っていない。その理由は日本に来たがっているジャコメッティの妻アネット(⬆上左写真中央)を避けるためだった。矢内原がモデルを努めるためにパリのアトリエに通いつめた3年間、絵画制作の作業の1日が終わると、矢内原とジャコメッティとアネットの3人でカフェで食事をし、その後アネットは矢内原と2人で矢内原の滞在していたホテルに帰り、明け方にジャコメッティのアトリエに帰るという、奇妙な三角関係を続けていたのだ。矢内原によれば、ジャコメッティは制作に没頭したいために妻アネットを故意に自分に仕向けていた様子が覗えたと後に述懐している。彫刻家として永遠に歴史に残る天才ジャコメッティとその妻を寝取った日本人哲学者(=法政大学名誉教授)の矢内原伊作、突拍子過ぎる2人のエピソードだと想いませんか(笑)