
ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクが1893年に制作したムンクの代名詞とも言える油彩作品「叫び」⬆️。この絵は、ムンクが実際に体験した「幻覚」に基づいており、ムンクは日記にその時の体験を次のように記している。「私は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。突然、空が血の赤色に変わった。私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた」。病的なまでに鋭敏な感受性に恵まれたムンクは、生命の内部に潜む説明し難い不安を表現することに才能を発揮した。幼い時から家族に次々襲いかかってきた病気と死は、ムンクの芸術に大きな影響を与えていた。医者になっていた弟のペーテル・アンドレアースが肺炎で亡くなり、また妹ラウラ・カトリーネも精神病で入院を続けていたなど不幸な環境は、改めてムンクに死と生の不安を呼び起こし、「叫び」を描く動機となった。ノルウェー国立美術館が所蔵する「叫び」の左上隅に「Kan kun være malet af en gal Mand!(狂人のみが描くことができる!)」という鉛筆による書き込みがある。これは、評論家や展覧会の訪問者によるイタヅラ書きと思われていたが、2021年2月に赤外線調査や筆跡の鑑定によって、ムンク自身によるものと判明した。1895年に初めてこの絵が公開された際、激しい批判に加えムンクの精神状態を疑う声まで上がったとき、ムンクがそれに反応して書き込んだのではないか、と言われている。