人間生きていればさまざまな「別れ」と出会うものだ。転校、転勤、転職。恋人との別れ、別居や離婚、死別、ペットとの別れもそうだ。「別れ」というものは、つらく、さみしいものだが、「別れ」を一種の儀式としてとらえることで辛さを解消する方法もある。1200年前の唐時代の詩人、于武陵による「勧酒」という五言絶句は、そうした辛い別れを祝祭に変えようとする名詩だ。勧酒 于武陵 勧君金屈巵 満酌不須辞 花発多風 人生足別離。1931年、この詩を日本の文豪として知られる井伏鱒二が、コノサカヅキヲ受ケテクレ ドウゾナミナミツガシテオクレ ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラダケガ人生ダ」 ⬆️と訳した。詩の 後半の「花発多風雨 人生足別離」は、一般的に「花が咲けば雨が降ったり風が吹いたりするように 人生には別れがつきものだ」といったような訳し方をするが、それを「花に嵐のたとえもあるぞ/『さよなら』だけが人生だ」と表現した井伏鱒二の訳はまさに名訳と言える。この言葉でなければ、100年近くも多くの日本人に愛され続ける「詩」になることは無かったに違いない。