江戸時代の天才絵師「葛飾北斎」の代表的な浮世絵『神奈川沖浪裏』⬆、その波の描写が当時のヨーロッパのアーティストに計り知れないインパクトを与えた。画家のゴッホは、「この波はまるで爪であり、船はその爪に捕まったようだ」と表現したのは有名な話だ。それまで誰も思いつかなかった北斎のこの「波」の表現法にインスパイア(刺激)されたのは西洋の画家だけでなくクラシック音楽家にも及んだ。19世紀後半から20世紀初頭にかけて最も影響力を持った作曲家ドビッシーは、自身の代表曲La Mer(海)を北斎の浮世絵『神奈川沖浪裏』にインスパイアされて作曲した。 彼は若い頃、後に 彫刻家ロダンの愛人となったカミーユ・クローデルと親しく、彼女から北斎の版画についてレクチャーを受け、彼の自室には北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」を飾っていたほどだ⬆。ドビュッシーは海から離れたビシャンで「海」の作曲を進めたが、友人への手紙に「ブルゴーニュの丘から海は見えないが、記憶の中の海(北斎の波)の方が現実の海よりも自分の感覚には合っている」と、記している。完成したLa Mer(海)のオーケストラスコア初版の表紙には北斎の「神奈川沖浪裏」の一部をトレースし、配色を本藍色からエメラルドグリーンに変更した「北斎風の波」が描かれている。「波が互いに戯れ、踊る音が聞こえてくる」というドビュッシーの名曲「海」、北斎の波をイメージしながらYouTubeで、ぜひご視聴あれ。