街の雑踏の中でBGMで流れてくると、「おっ!」とついつい耳を傾けてしまうサザンオールスターズ桑田佳祐の声。彼が37年の長きに渡って、数多くのヒット曲を生み出し今なおTOPシンガーで居続けられるのは、他の歌手には無い独特の個性のあるその「声音」のお陰と言えるだろう。しゃがれたハスキー感のあるその声は、「音声学」で分析すると、日本人の歌手の多くが、気道を開放してハキハキした「母音」で歌うのに対して、桑田佳祐の場合は、舌、歯、唇または声門で息の通り道をコントロールしながら「子音」を強めて歌うことで、声が立ちポップスの雰囲気が漂うのだという。彼が、「日本語を英語っぽく歌う」と評されるのは「子音」を強調した歌い方をしているからだ。雑踏の中でも桑田佳祐の歌声とすぐ聞き分けられるのは、彼が、「子音」を強調する歌い方に加えて、声帯に強い息の圧力をかけることで強い中高音を生み出し「よく響く声」を作っているからだという。桑田は、自分の独特な歌唱法について過去にこんな風に語っている。「語感って言うかなァ、それを大事にしたかったんだと思う。ポップスの世界においては語感を大切にするのが普通だと思っていたし。だから’’乗り’’と言うか、意味よりも気持ちの良さってことしかなかった」。彼の「意味よりも気持ちの良さ」を重視した歌声は、今日も都会の雑踏の中で響き続けている。