先月、92歳で亡くなったピアニストのフジコ・ヘミング⬆。30年以上に渡ってヨーロッパでまったく無名のピアノ教師として暮らしたあと帰国、1999年68歳の時にNHKのTVで「フジコ〜あるピアニストの軌跡〜」というドキュメンタリーが放映され、一躍フジコブームが起こった。その後、発売されたCD『奇蹟のカンパネラ』は、発売後3ヶ月で30万枚のセールスを記録、日本のクラシック界では異例の大ヒットを記録した。しかし、彼女のピアノ演奏は、楽譜に書かれていない音を弾く、演奏途中で止まる、テンポが極端に遅いなどでクラシック界では批判の的となったが、日本の第一人者と評価されるピアニストたちも人気という点で誰もフジコにかなわなかった。クラシックピアノ演奏ルールなぞお構い無しの演奏でも、多くの人々を虜にした彼女のピアノの「音色」とは何だったのか。フジコは自身の演奏について「誰が弾いても同じなら、私が弾く意味なんてない。だから私は私だけの音を大切にしているの、ぶっこわれそうなカンパネラがあったっていい。魂が燃え尽きるほどのノクターンがあったっていい。機械じゃないんだから」と語ったが、35歳で巨匠レナード・バーンスタインに認められてのリサイタルの直前に聴力を失うという悲劇や、恋人の裏切り、母との確執、異国での孤独な生活など、どん底をさまよい続けた30年以上に渡る苦難の人生があったからこそ、フジコ・ヘミングのピアノの音色は、聴く人の魂に強く響いてくるのかも知れない。YouTubeで彼女の演奏するぶっこわれそうな「カンパネラ」を聞いて御冥福を祈りたい。