ベストセラー「バカの壁」の著者で東大医学部名誉教授の養老孟司先生⬆。若い頃は、他人に挨拶するのが何故か苦手だったという。先生曰く「中学・高校の頃は、町で知り合いに会っても挨拶ができなくて、よく母に怒られました」と語る。東大医学部の教授になった40代の頃、地下鉄に乗っていて、自分が人への挨拶が苦手な理由について考えて見たという。すると、4歳の時に亡くなった父の臨終の場面が、何の脈絡もなく映画の1シーンのように出てきた。親戚の人から「お父さんに挨拶をしなさい」と云われたのに、四歳の養老さんは、何故か父親に「さよなら」と言えなかった。「自分が挨拶が嫌いだったのは、あの時、父にしっかりさよならが言えなかったからなんだと気がつきました。その瞬間、いま父は(自分の心の中で)本当に死んでしまったんだと知って、思わず涙が流れました」と語り、「それまでは、さよならを言ってないのですから、父の生はまだ終わってはいないわけですから、がんばるしかなかった。子供としてできることは、それしかなかった。それが分かってからは、ちゃんと挨拶ができるようになりました。フロイトが『抑圧』と呼んだ自我の防御機制の典型ですね」と仰った。「知の巨人」が長い間背負っていたトラウマ(心の傷)、その事から解放された瞬間、思わず涙がこぼれ落ちた養老先生、素敵な話だと思いませんか。