ジャズボーカリストが必ず歌うスローバラードの定番となっている名曲「ミステイ」。この曲をつくったエロル・ガーナーは、大げさな言い方をすれば、この1曲だけでジャズの歴史に名を残したと言えるだろう。1954年、33歳のガーナーがレコーディングのため、ニューヨークからシカゴに向かう飛行機の機内で、窓の外に見える霧(ミスティ)にインスピレーションを得て、ふとメロディが浮かんだという。それが名曲「Misty」の誕生した瞬間だった。ガーナーは機内で浮かんだメロディーを必死で覚えて、シカゴで泊まったホテルのピアノで早速曲を完成させたという。正式な音楽教育を受けたことのないガーナーは、楽譜の読み書きがほとんどできなかったため、出来上がった曲があまりに良いメロディだったので、以前どこかできいた曲を自分が無意識にパクってしまったのではないかと、後々までずっと心配していたという。しかし、発売された「ミスティ」は評判を呼び、翌年にはジョニー・バークが詞を付け、59年にジョニー・マティスが歌って大ヒット。エロル・ガーナーの名は世界に広く知られることになったのだ。ほとんど独学でピアノを習得したガーナーのピアノの弾き方は独特。左手のバッキング(歯切れのよい奏法)に少しタイミングをずらしたように入る右手のソロ、彼独特のスイング感あふれるジャズピアノ演奏をYouTubeでご視聴あれ。