1991年にイタリアアルプスの山中の氷河でアルプス登山客の夫妻が、溶けた雪の下から偶然に発見した5300年前の最古の人類(⬆上写真左)は、「アイスマン」の名で知られている。調査の結果、この原始人は男性で、瞳、髪の色は茶色、肌の色は白色、身長160 cm、体重50 kg。骨のデータ解析により年齢47歳前後、筋肉質な体型で、血液型はO型だった。このアイスマンの死因は、最初は凍死説だったが、X線検査で左肩の下部に矢尻が見つかり(⬆上写真右)、射られた矢で動脈を損傷したための失血死であったことが実証された。右眼窩に骨にまで至る裂傷が認められ、更に後頭部に即死に至る量の脳内出血の痕跡があり、これは矢を射った人物が気を失ったアイスマンにとどめを刺すべく、彼の側頭部を石などの鈍器で殴ったことによるものと推定された。また、彼を殺傷した矢の軸は見つかっておらず、殺人犯が持ち帰った可能性があり、アイスマンが矢の刺さっていた左側の腕をあごの下まで持ち上げられたような不自然な格好(⬆上写真右)で発見されたのは、犯人が矢の軸を引き抜く際に左腕を持ち上げたためと考えられるという。矢の軸は作成者が誰かわかってしまうため、殺人犯は証拠隠滅のためにアイスマンの体から抜き取って持ち帰ったと考えられている。5,300年前のイタリア山中で起きた殺人事件、現代の科学の力でこれほどリアルに殺害シーンを解き明かせたのは実に驚きである。