アメリカの権威ある文芸誌「ニューヨーカー」が「2018年度のベストブックス」の1冊に2年前に芥川賞を受賞した女流作家村田沙耶香さんの小説「コンビニ人間」の英訳版を選んだ。この本を選んだ理由についてニューヨーカー誌は「現代社会の中で、心が引き裂かれ孤独に陥りがちな「不器用な生き方」しかできない人々を勇気づける作品」であるからとしている。私達日本人にとって興味深いのは、世界の最先端を生きているニューヨーカー達がなぜこの日本的な「不器用な生き方」を綴った私小説にこころ打たれたのかと言う点だろう。この小説の主人公の女性は、大学時代に始めたコンビニでのアルバイトを30歳を過ぎても続けていて人間関係は希薄、恋愛経験も皆無という半生を過ごしコンビニで仕事を始めてから普通の人らしく振る舞う方法をやっと身につけて私生活でもそのほとんどを「コンビニでの仕事を円滑に行うため」という基準に従って暮らし、なんとか普通の人を演じ続けている人物だ。 しかし、 そのような生き方も徐々に限界に達しコンビニを辞めて就活を始めようとするがある事件をきっかけにやはりコンビニ店員こそが自分の唯一の生きる道であることを再発見するというまさに「不器用な生き方」の典型を綴った私小説だ。「アメリカファースト」が叫ばれている国で、日本人のこうした「不器用な生き方」への「共感」が生まれたのは意外過ぎる気がするが、いま世界はグローバリズム(地球的活動)の時代から内向きな「私」の時代へと変化し、「自分らしいベストな生き方」を発見することが万国共通の「ヒューマンファースト」(人間第一主義)になっているのかもしれない。