3年前、スーパーフライ級最強王者でダウンした事のないナルバエスを井上尚弥選手が2Rで4度のダウンを奪いKOするとナルバエス陣営が「グローブに何か仕込んでいるだろう、ナルバエスがあんなに倒れるハズがない」と疑われグローブを外して何も仕込んでないことを証明してみせたというエピソードがある。今回のWBSSバンタム級トーナメント戦でゴングからわずか70秒でKOしてみせた井上選手のパンチ力もグローブに何かが仕込まれているような強烈さでパヤノは打ち倒され、解説を務めた元チャンプ長谷川穂積氏は「あれは失神です」と井上のパンチの威力の凄さについて語っている。本人は試合後のインタビューで「ジャブを内側から入れて死角を作ってからの右ストレート、『距離感』も良い一撃がフィツトした」と語った。この試合ではじめて繰り出したたった一撃でのノックアウト。その理由は井上選手が繰り出すストレートの「貫通力」にある。ストレートは相手のコメカミに向かって体を回転させながら腕をまっすぐに伸ばして打つものだが、普通の選手は腕がまっすぐ伸び切らない「距離」で打つため強烈なパワーが伝わらない、井上選手は本人も言うように腕がまっすぐに伸びて強烈な衝撃を与えられる「距離感」を見計ってから打つことで一発で相手を倒せる「貫通力」が生まれるのだ。グローブに何かを仕込む代わりに相手との「距離感」を瞬時に読み取りながら腕を真っすぐ伸ばす「貫通力」のあるストレート、これからもKOのヤマを築いてくれるに違いない。